トランプ劇場で世界貿易が混乱の入り口を迎える中で、バルチック海運指数の動きが注目されていいます。
船舶の需要が世界経済の景気動向に敏感に反応することから、経済が好調なら海上輸送量が増え、バルチック海運指数が上昇し、逆に不景気なら指数が下落するという傾向あり、投資家や経済分析家が重視しています。
今回は、景気先行指数と言われるバルチック海運指数についての解説です。
バルチック海運指数とは(概要)
バルチック海運指数(Baltic Dry Index、略称:BDI)は、世界の海上貨物運賃の指標の一つで、主に鉄鉱石、石炭、穀物などのばら積み貨物(コンテナ貨物ではない)の輸送コストを表します。
指数は、「ロンドンのバルチック海運取引所」によって毎日公表されており、世界各地の海運会社やブローカーなどに現在の運賃や用船料を聞き、まとめた指数です。
1985年1月4日を1000として算定しており、国際的な海上運賃の指標となっています。
バルチック海運指数の重要性
【景気の先行指数】
バルチック海運指数の対象となる、「ばら積み貨物」は原材料であることが多いため、指数が上昇🟰世界的な需要の高まりを意味しており、景気の先行指数として確認されることが多いからです。
【物価の先行指標】
その他、インフレやコストとの関連があります。
輸送コストが上がると最終製品価格にも影響する可能性があることから、インフレの先行指数としても注目されます。
コロナ禍で、コンテナ不足、人手不足、原材料価格の高騰が重なったタイミングでは、指数が大きく上昇したのは記憶に新しいです。
コロナ禍の場合、景気は減速していましたが、地政学リスクの高まりや人手不足といったコストプッシュ型のインフレが原因だっため、その影響が指数にも顕著に表れています。
※指標が上昇しているからといって、必ずしも景気が良いというわけではないことは留意する点です

バルチック海運指数の変動要因をまとめると、政治リスク(戦争、制裁など)、世界の経済状況(需要の増減)、船舶の供給量(新造・解体など)、燃料価格、航路の混雑や港湾事情という感じです。
最近のバルチック海運指数の動向

2025年5月9日時点で、バルチック海運指数は1,299ポイントとなっており、年初から約30%上昇しています。
これは、言わずもがなトラおじ大統領による関税措置を見越して輸入を急増させたことによるもので、2025年第1四半期の米国輸入が年率41.3%増加した裏付けともいえます。 Investing.com
しかし、4月下旬以降、やや下落傾向にあり、5月初旬には1,400ポイント台から1,300ポイント台前半まで下落しており、駆け込み需要を経て今後の貿易活動低下を見越した先行的な動きと言えるでしょう。
今後の注目ポイントとしては、正味米中交渉次第といったとことですかね。
①燃料価格の変動:燃料価格の変動が運航コスト影響を与える
②中国経済の動向:世界最大の原材料消費国である中国の景気動向響を与えま
③米中貿易関係:関税措置や貿易政策の変化が輸送需要に与えいる影響
他方で、トランプ大統領の関税政策もさることながら、燃料価格強いては世界需要の指標ともいえる原油(WTI)の指数を見てみると、年初来価格が下落しております。
既に、世界の需要が低下していたところに、トランプ関税ショックが拍車をかけた可能性が考えられますね。


日本企業への影響
海運業(ばら積み輸送)を主力とする体表としては、以下の企業が挙げられます。
- 日本郵船(9101)
- 商船三井(9104)
- 川崎汽船(9107)
これらの企業は鉄鉱石・石炭・穀物などの輸送が主力のため、バルチック海運指数が下落=運賃が下がると、直接的に収益が悪化します。
🔳それぞれの2025年度(2026年3月)の業績予想!
【日本郵船】
2026年3月期の業績見通しでは、連結純利益が前年比47.7%減の2,500億円、経常利益が同48.1%減の2,550億円になると予想。
コンテナ船部門の運賃上昇の一服や、地政学的な情勢変化、米国の関税政策などが影響 。
配当については、2025年3月期の年間配当を前期の140円から325円に増額しましたが、2026年3月期は235円に減配
【商船三井】
2026年3月期の業績見通しでは、連結純利益が前期比60%減の1,700億円、経常利益が同64.3%減の1,500億円と大幅な減益を予想 。
米国の関税政策によるインフレや世界経済の停滞懸念があり、海運業界全体の不透明感が影響。
配当については、2025年3月期の年間配当を前期の220円から360円に増額しましたが、2026年3月期は150円に減配する方針です 。
【川崎汽船】
2026年3月期の連結純利益が前期比67%減の1000億円になる見通し。
トランプ米政権の関税政策による荷動き鈍化が響く。
自動車船事業での輸送台数の減少を見込むほか、近年の業績をけん引してきたコンテナ船事業でも貨物減少や運賃下落が打撃となる見込み。
26年3月期の年間配当は120円(前期は年100円)の計画
どこも、トランプ関税による影響を見越して大幅な減益を見込んでおり、かなり厳しい見通しをだしていますね。
その他にも、リース船の稼働率や貸出運賃も下がり船舶リース・海運ファンド事業者
- MCシッピング(商社系の船舶リース事業)
- ジャパンシッピング・エクスチェンジなど海運ファンド系
海運会社の利益が減ると、新造船の発注が減少することから、造船会社(間接的な影響)
- 今治造船、
- 三井E&S造船
- ジャパンマリンユナイテッド
新造船需要が減ることで設備投資が減少することから、船用機器・部品メーカー
- ナブテスコ(船舶制御機器)
- ダイハツディーゼル(船舶用エンジン)
- IHI、川崎重工業(タービン、ボイラーなど)
といった企業に連鎖的に影響が波及する可能性がありますし、海運に関する企業はトランプ関税のネガティブな報道には下落で反応する傾向があることから注目されています。
まとめ
バルチック海運指数とは、世界の海上貨物運賃の指標の一つで、主に鉄鉱石、石炭、穀物などのばら積み貨物(コンテナ貨物ではない)の輸送コストを示す指数で、景気の先行指数として確認されている。
その他、インフレや貿易コストの先行指数としても用いられる。
年初からは、トランプ関税を見越した駆け込み輸入などが急増したことで上昇したが、駆け込み需要を経て今後の貿易活動低下を見越して4月からは下落基調。
日本を代表する海運業者は軒並み2025年度の業績見通しを引き下げており、今後の米中貿易協議の行方を固唾を飲んで見守ることになりそう。

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